2025年5月7日、塩野義製薬株式会社(4507)は、日本たばこ産業株式会社(2914、以下:JT)傘下の鳥居薬品株式会社(4551)に対し、
公開買付け(TOB)を通じて全株式の取得を目指すと発表しました。
これにより、鳥居薬品は上場廃止となる見通しで、塩野義製薬の完全子会社として再出発を図ります。
鳥居薬品は、すでにTOBへの賛同を表明しており、友好的買収として手続きが進められます。
JT、医薬事業をすべて手放し本業回帰へ
JTは現在、鳥居薬品株式の約55%を保有しています。
今回のTOB成立を受けて、保有株すべてを塩野義製薬へ売却する予定であり、
同時に米国の医薬子会社を含む医薬関連事業すべてを塩野義製薬に譲渡します。
この動きにより、JTは医薬事業から完全撤退し、本業であるたばこ・加熱式タバコ事業へと経営資源を集中させる方針です。
事業選択と集中の明確な一手といえるでしょう。
塩野義製薬の狙いは「国内強化とグローバル拡張」
一方の塩野義製薬にとっては、鳥居薬品の買収は以下の複数の戦略的な意味を持ちます。
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国内流通・販売ネットワークのさらなる強化
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抗ウイルス薬や感染症領域における製品ポートフォリオの拡充
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自社製品の製造・販売体制の柔軟性向上
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北米をはじめとする海外展開の加速
とくに鳥居薬品が長年にわたって築いてきた腎・感染症領域の医薬品開発・販売ノウハウは、塩野義の成長ドライバーと見なされています。
TOBの詳細条件
項目 | 内容 |
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買付株式数 | 12,712,351株(上限なし) |
買付価格 | 1株あたり 6,350円 |
買付代金総額 | 約807億円(※想定最大) |
買付期間 | 2025年5月8日(木)〜6月18日(水)の30営業日 |
最低買付数は3,342,000株で、これに満たない場合はTOBは不成立となります。
ただし、JTが賛同し保有株売却を約束していることから、成立の公算は極めて高いと見られています。
医薬業界の再編加速、次なるM&Aの波は?
今回の買収は、国内製薬業界における再編の象徴的な案件といえます。
大手が特定領域に集中し、中堅を取り込むことで経営資源を統合する流れが加速する中、他のたばこ・食品・化学系大手企業の医薬事業の切り離しや、製薬ベンチャーへの再投資も視野に入るでしょう。
今後の注目ポイント
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TOB成立後の鳥居薬品ブランドと製品群の位置づけ
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米国子会社譲渡を含むグローバル展開への具体的な布石
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JTの医薬撤退による財務改善および株主還元方針の変化
このTOB案件は、事業ポートフォリオの再編と集中投資の象徴例として、多業種にとっても今後の企業戦略を占う重要な示唆を与えるものです。塩野義が描くポスト買収の成長戦略に、業界内外の視線が集まります。