「開業医になりたいけど、立地探し・資金調達・許可申請が大変…」
「クリニック経営の初期リスクを抑えたい」
「継承できる施設があるなら、そこからスタートしたい」
そんな医師・経営者にいま注目されているのが、**医療法人のM&A(事業承継・買収)**という選択肢です。
以前は「医療法人は売買できない」と思われていましたが、現在は適切な手続きと許認可を経ることで、医療法人ごと買収してクリニックを引き継ぐことが可能になっています。
本記事では、クリニック・診療所の開業を検討している医師や法人に向けて、医療法人のM&Aの流れ・注意点・実際の成功事例・よくある誤解まで詳しく解説します。
医療法人のM&Aとは?基本の仕組み
医療法人は“法人”として買収可能
医療法人にはいくつかの種類がありますが、最も一般的なのは社団医療法人です。
この医療法人に対して、理事・社員構成の変更=経営権の移動という形で承継が行われます。
主なM&A対象となるのは以下のような施設
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内科・小児科などの地域密着型クリニック
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歯科医院(歯科医師限定)
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整形外科、皮膚科、耳鼻科、婦人科などの専門クリニック
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在宅診療・訪問看護を含む医療法人
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医療法人が保有する医療モール・複数クリニック経営体
クリニックM&Aのメリット(買収側の視点)
メリット | 内容 |
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初期開業リスクを低減できる | 立地・スタッフ・患者がすでに揃っている |
診療報酬請求などの仕組みが整っている | レセプトや保険点数管理などのノウハウが継承される |
医療機器・電子カルテが揃っている | 設備投資コストを抑えられる |
地域でのブランドを引き継げる | 特に長年の診療歴がある医院は信頼されている |
人材(看護師・事務スタッフ)を引き継げる | 離職がなければ運営に即移行できる |
実際の成功事例
事例①:皮膚科クリニックを買収し、専門性を強化
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売却側:60代院長が引退希望、年間外来数4,500人
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買収側:アレルギー専門の若手医師が診療内容を一部変更
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継続雇用:受付・看護師がそのまま残留
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結果:地元の口コミを活かし1年で診療数150%アップ
事例②:在宅医療クリニックを法人が承継
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売却側:在宅専門医が個人運営していた医療法人
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買収側:調剤薬局を展開していた法人が介護連携強化目的で買収
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結果:訪問診療×調剤×訪問看護の地域連携が実現
医療法人M&Aの流れ(買収手順)
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目的の明確化(診療科/地域/経営方針)
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M&A仲介会社への相談・案件選定(専門性のある仲介を選ぶ)
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秘密保持契約(NDA)の締結後、案件情報の開示
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現地見学・院長面談・条件すり合わせ
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基本合意 → 財務・法務・診療体制などのデューデリジェンス
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譲渡契約の締結・理事変更などの手続き
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都道府県への届け出・認可申請(医療法に基づく)
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引継ぎ・診療スタート(通常1〜3ヶ月)
注意点・落とし穴
都道府県の認可手続きが必要
医療法人の設立や理事変更には、都道府県への**認可申請(事前協議+承認)**が必要です。
買収交渉が進んでも、これが不備だと実行できないため、経験豊富な士業・仲介会社のサポートが不可欠です。
医師資格が前提
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原則として理事長は医師でなければならない(歯科は歯科医師)
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非医師が買収する場合は医師を雇用・提携する必要がある
財務・人材・患者層の調査は必須
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帳簿と実態が食い違っていないか(売上・保険請求の信頼性)
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職員の定着率/労務トラブルの有無
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継続的な患者層があるか、属人的ではないか
よくある質問(Q&A)
Q:医師資格がない法人でも買収できますか?
→ 原則不可ですが、医療法人の社員または理事として医師を据える形で間接的な運営は可能です。
Q:資金はどのくらい必要?
→ 小規模診療所で1,000万〜3,000万円、中〜大規模で5,000万円以上が相場です。融資(日本政策金融公庫・医師向けローンなど)を活用する事例も多いです。
Q:スタッフの離職が不安です
→ 譲渡前に十分な説明と引継ぎ支援をすることで、多くはスムーズに継続勤務します。
まとめ|“ゼロからの開業”ではなく“引き継いで始める”という選択肢
開業医になるには、資金・時間・許認可・設備・人材など、多くのハードルがあります。
でも、すでに機能している医療法人を“引き継ぐ”ことで、その多くをショートカットできるのです。
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医療×経営で挑戦したい医師
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地域医療を支える仕組みに参入したい法人
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“守られてきたクリニック”を次の形に進化させたい方
そんな方にとって、医療法人のM&Aは**「ただの承継」ではなく、「未来をつくる戦略」**です。