買収後に“想定外”が起こる原因とその対処法

M&Aでの事業買収は、新たな収益源を手に入れられる魅力的な手段です。
しかし一方で、買収後にトラブルや予期しない課題に直面し、「想定と違った」「もう買うんじゃなかった」と後悔するケースも少なくありません。

  • 売上が思ったより立たない

  • キーマン社員が辞めてしまった

  • 顧客が離れていった

  • システムや契約面に問題があった

これらはすべて“買収前には気づけなかったリスク”から生まれるものです。

本記事では、買収後に起こりがちな“想定外”のパターンと、それを回避・対処するための実践的なノウハウを紹介します。


よくある「想定外」トラブル7選とその原因

① 売上が想定より少ない

主な原因:

  • 見込客のリピートが想定より低かった

  • 一部顧客が前オーナーとの関係性で成り立っていた

  • 数値上の“売上”に過度な季節性・一過性が含まれていた

対処法:

  • 過去3年分の月別売上データを取得し、波の有無を分析

  • 上位顧客の構成比をチェックし、関係性を把握しておく

  • トップセールスが社長本人であるケースは、属人性リスクとして要注意


優秀な社員が離職した/士気が下がった

主な原因:

  • 新オーナーに対する不信感

  • 引き継ぎ内容・待遇の変更に不満

  • 「社長が変わったから辞める」といった心理的要因

対処法:

  • 面談による関係構築と、“いきなり変えない”方針の明示

  • 給与・ポジション・業務内容の“見える化”と事前共有

  • 前オーナーと連携して「新体制の納得感」を演出する期間を設ける


顧客が離れてしまう

主な原因:

  • 「〇〇さん(旧オーナー)がいないなら…」という属人的取引

  • 価格・サービス・納期など、見えない“約束”が守られなくなる

  • 引き継ぎ後の連絡ミスや印象の悪化

対処法:

  • 主要顧客には事前に“引き継ぎ挨拶”を行う(信頼のバトン)

  • 契約書以外の“口約束的ルール”も事前にヒアリング

  • 初期1ヶ月は旧オーナーにも立ち会ってもらい、スムーズな橋渡しを図る

LINE追加

契約関連で法的リスクが見つかる

主な原因:

  • 業務委託契約や下請法違反のリスクがあった

  • 労働条件・残業代の未払いリスク

  • 著作権や商標の権利があいまい

対処法:

  • DD(デューデリジェンス)で契約書を精査する

  • 法務・労務の専門家による事前調査を依頼

  • 重要な契約(継続収益の根拠)については、買収後も継続する明記を義務付ける


在庫や設備に“見えないコスト”があった

主な原因:

  • 廃棄前提の在庫が資産計上されていた

  • 機械や設備が老朽化していた

  • 引き継ぎ後に修理・更新が必要だった

対処法:

  • 設備・在庫の“現物確認”を必ず実施する

  • 減価償却表と現物との乖離がないかチェック

  • 第三者の鑑定や業界知見のある専門家の同行も推奨


システム・業務フローがブラックボックス

主な原因:

  • 担当者の頭の中だけで処理されていた

  • マニュアルが整備されておらず、属人運用だった

  • システムの管理権限が移行されていない

対処法:

  • 購入前に業務プロセスやツールの棚卸しを実施

  • システムの契約名義・管理権限をすべて引き継ぐ

  • 業務マニュアルを文書で整備・引き渡してもらう


オーナーの人脈・個人依存が大きすぎた

主な原因:

  • 顧客・取引先との関係が“個人的なつながり”に依存

  • 仕入れや融資、許認可などもオーナーの信用に依存していた

対処法:

  • オーナーの付き添いによる紹介期間を契約に盛り込む

  • “法人ベースの関係”に切り替えるロードマップを策定

  • 顧客管理台帳を整備し、接点を文書化してもらう


想定外を減らす「事前の3つの備え」

1. デューデリジェンス(DD)を軽視しない

  • 財務だけでなく、人事・法務・業務フローまで幅広く確認を

  • DDの範囲は「見た目の数字の裏側」にまで踏み込む必要あり

2. 現場・社員との事前接点を可能な限り持つ

  • 「会ってみてから決める」ぐらいの温度感を持つ

  • 空気感・雰囲気・社員のリアルな声が見えてくる

3. “最悪のケース”を事前に想像しておく

  • 売上が2割減ったら?

  • エース社員が辞めたら?

  • 設備トラブルで1週間止まったら?

リスクヘッジを事前に設計しておくことが、買収成功の鍵になります。


まとめ|“事業”ではなく“関係性”を引き継ぐ意識が成功の鍵

M&Aで引き継がれるのは、会社・店舗・数字だけではありません。
顧客、社員、取引先との“関係性”という目に見えない資産が、事業の成否を大きく左右します。

買収は「契約」で終わりではなく、「引き継ぎ」のスタートです。
その後の経営をスムーズに運ぶためにこそ、“想定外”のリスクに備えた準備と、丁寧な対応が欠かせません。

LINE追加