【海外インフラ戦略の最前線】三井物産×商船三井、英国ニグ港を買収へ

~洋上風力“次世代エネルギーハブ”を握る意義とは~

2025年7月、三井物産と商船三井という日本を代表する2社が、英国スコットランド北東部にあるニグ港とその関連事業を買収することを発表した。脱炭素社会に向けた再生可能エネルギーのシンボルとも言える「洋上風力」。その世界最大級の開発エリアに近接する“戦略港”を日本勢が押さえにかかったこの一手は、いわば洋上風力インフラの覇権争いへの参戦表明でもある。

■洋上風力の“勝ち筋”は「港」にあり

洋上風力発電は、風況の良い海上に巨大な風車を設置し、安定的な再エネ供給を図る注目技術。特に欧州はこの分野で世界をリードしており、なかでも英国スコットランドは浮体式・着床式両方のポテンシャルを秘めたエリアとして知られる。

その中核拠点が**ニグ港(Nigg Port)だ。
この港は、洋上風力のタービン製造、組立、メンテナンスの拠点としての活用が進められており、今後の成長産業の
“海の工業団地”**とも言えるポジションを担っている。

■三井物産×商船三井、「総合力」の結集

本件買収により、港の所有権とともにエネルギー産業向けの鋼材加工・製造事業も獲得する形だ。三井物産が51%、商船三井が49%を出資し、運営母体となる英国法人を通じて共同運営していく。

  • 三井物産 → 再エネ領域への豊富な投資実績+グローバルな事業ネットワーク

  • 商船三井 → 海上輸送や洋上支援船の運用ノウハウ+海洋インフラの保有資産

この2社の連携は、単なる港湾保有に留まらず、「風力発電という未来インフラ」の川上から川下までを一気通貫で支えるサプライチェーン構築へと繋がる。

■“ネットゼロ”と経済安全保障の接点に

英国では2050年までにカーボンニュートラル達成(ネットゼロ)を掲げており、洋上風力はその中心を担う国家戦略でもある。加えて、エネルギーの地産地消を進める動きは、エネルギー安全保障や雇用創出という文脈でも注目を集めている。

今回、日本企業がその中心的インフラを押さえに行く動きは、日本のエネルギー安全保障・脱炭素目標とも連動する長期戦略の一環と見てよいだろう。


■編集部の視点:なぜ「ニグ港」なのか?

港湾というと、物流拠点のイメージが強いが、洋上風力の文脈では「インフラ製造・組立の現場」という役割が加わる。そのため、港湾事業はもはや「再エネ産業の製造ラインの一部」とも言える。

今回のニグ港買収は、まさに“次世代エネルギーの製造業に日本企業が食い込んだ”象徴的な動きであり、再エネ周辺事業のM&Aが今後さらに活発化していく兆しとも言える。


【まとめ】

  • 英スコットランドの戦略港「ニグ港」および関連事業を三井物産と商船三井が共同買収

  • 洋上風力開発のグローバルハブとして注目される地域でのインフラ支配を獲得

  • 製造・物流・海運の一体展開により、再エネ事業のバリューチェーンを掌握

  • 世界の脱炭素戦略と日本の商社・海運業の変革が交差する“象徴的ディール”